緑内障について

■概要
 緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症であり、隅角所見、眼圧上昇をきたしうる疾患や状況の有無および付随する要因により分類される。
 基本的には眼圧上昇ないし視神経障害の原因を他の疾患に求めることのできない原発開放隅角緑内障と、他の眼疾患や全身性疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる続発緑内障、そして胎生期の隅角発育異常により眼圧上昇をきたす発達緑内障の3病型に分けられる。

眼球のなかには『房水』と呼ばれる水が循環していて、角膜や水晶体に栄養を与え、眼圧を維持して眼球の形を保つ働きがある。房水は眼のなかで作られ排泄されるため、眼圧は一定の正常範囲内(上限21mmHg)に保たれる。しかし、房水の循環が何らかの原因で悪化したり、あるいは排泄量を上回る量の房水が作られると房水が溜まり眼圧が亢進する。その結果、眼の奥にある視神経が圧迫され、視野欠損や視力低下などの視機能障害が出現する。これが従来から考えられてきた緑内障の概念である。

 一方20世紀後半に、眼圧が正常範囲内にも関わらず緑内障と同様の視野障害などの症状を有する人がいることが判明する。眼圧以外の要因(視神経の血流や、脆弱性)も関与する緑内障、すなわち正常眼圧緑内の概念が登場することになる。現在、日本人のおよそ70%は正常眼圧緑内障であるといわれている。

 眼圧が急激に上昇するケースでは、頭痛や眼の痛み、吐き気、結膜の充血、角膜浮腫などの症状が出現し、この状態が数時間続くと視神経が強く障害され、失明へとつながることもある。そのため眼圧を下げるための緊急手術が施される。それ以外の多くは無症状のうちに視野障害が進み、視野が欠けていると自覚できる頃にはかなり進行していることが多いことから、早期発見が極めて重要となる。最近では健診やコンタクトレンズを作るときに初めて高眼圧であるとわかるケースもあり、以前と比べて早い段階で治療を開始することができるようになってきている。

 緑内障(正常眼圧緑内障を含む)は「眼圧を十分に下げることで視神経の障害の改善あるいは進行を阻止できる疾患」であるとの考え方から、現代医療においては点眼薬や手術などで眼圧をコントロールしながら視機能を維持することが目的となる。目標眼圧をコントロール前の眼圧から約30パーセント下降させ、それを維持していくようにすると、視野欠損の進行を抑えることができるという研究結果もあるが、緑内障のタイプや視機能の障害の程度、進行のスピードなどによって目標眼圧をより低く設定することもある。

■緑内障の分類
 緑内障はその病態から大きく4種類に分類される。

@原発開放隅角緑内障(広義)
 原発開放隅角緑内障(広義)とは、従来の原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障を包括した疾患概念である。原発開放隅角緑内障(広義)の発症および進行のリスクは眼圧の高さに応じて増加する。また、視神経の眼圧に対する脆弱性には個人差があり、特定の眼圧値により原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障を分離できないため、両者を包括した疾患概念として原発開放隅角緑内障(広義)とする。
 原発開放隅角緑内障(広義)は、臨床現場では便宜的に高眼圧群(原発開放隅角緑内障(狭義))と正常眼圧群(正常眼圧緑内障)に区分される。多治見スタディ(疫学調査)の対象者眼圧分布によると、右眼眼圧は14.6±2.7mmHg(平均値±標準偏差)、左眼眼圧は14.5±2.7mmHg(同)であり、正常眼圧を平均値±2標準偏差で定義すると、正常上限は19.9〜20mmHgとなる。したがって日本人において眼圧20mmHgを境に原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障の臨床病型に分けられる。
 慢性進行性の視神経症であり、網膜神経線維層に形態的特徴を有し、他の疾患や先天異常を欠く病型。隅角検査では正常開放隅角であるが、隅角の機能異常を否定するものではない。


 A)原発開放隅角緑内障(狭義)
 緑内障性視神経症の発生進行過程において、眼圧が統計学的に規定された正常値を超えており、眼圧の異常な上昇が視神経症の発症に関与していることが強く疑われるタイプ。眼圧には日内変動、季節変動などの存在が知られているため、眼圧測定回数が少ないと異常高値を示さないこともある。
 多治見スタディによると、40歳以上における緑内障の有病率は5.78%で、そのうち広義の原発開放隅角緑内障は3.92%、狭義の原発開放隅角緑内障は0.32%であると報告されている。
 眼圧の上昇は、房水の流出路である繊維柱帯やシュレム管で、房水の流れが悪くなるために起こっていると考えられている。

 B)正常眼圧緑内障
 日本人に最も多い種類の緑内障である。原発開放隅角緑内障(広義)のうち、緑内障性視神経症の発生進行過程において眼圧が常に統計学的に規定された正常値に留まるタイプ。正常眼圧緑内障の発症に眼圧異常が関与していないことを必ずしも意味するわけではない。また、眼圧以外の発症要因(循環障害など)を推定させる所見を呈することも多い。

 上記の多治見スタディにおいて、3.6%という高い有病率であることが報告されている。すなわち、原発開放隅角緑内障の約9割、緑内障全体の約7割を占める。
 

A原発閉塞隅角緑内障
 他の原因がなく、遺伝的背景、加齢による前眼部形態の変化などで隅角の閉塞によって眼圧が上昇した結果、緑内障特有の視神経乳頭の所見や視野欠損を生じたものを、原発閉塞隅角緑内障といいます。この緑内障は、特徴的な前房部の構造に起因しています。
 原発閉塞閉塞隅角緑内障のうち、急激かつ高度な眼圧上昇(40〜80mmHg)をきたすものを「急性原発閉塞隅角緑内障」といい、眼痛、頭痛、霧視、悪心、嘔吐などを生じます。この状態を放置すると、視神経症が急速に進行して、数日のうちに失明に至ります。そのため、代表的な眼科救急疾患の1つとされています。

B続発緑内障
 他の眼疾患や、全身疾患、薬物使用などが原因で眼圧が上昇し、それにより起こる緑内障です。代表劇な病型として、落屑緑内障、ぶどう膜炎に伴う緑内障、血管新生緑内障、ステロイド緑内障などがあります。

C発達緑内障
 もともとは先天緑内障といわれていました。早発型発達緑内障、遅発型発達緑内障、他の先天異常を伴う発達緑内障に分類されます。

■診断
 眼圧や視野検査、眼底検査での視神経乳頭の状態により診断をします。
 眼底検査では視神経乳頭の陥凹、網膜神経線維層の欠損などが認められます。
 視野検査では、眼底所見に相当する視野障害が見られます。

■治療■
 緑内障の治療目的は視機能の維持にあり、その方法として唯一科学的根拠の認められたものが「眼圧を下げること」です。
 眼圧を下げ治療には大きく2つ、薬物療法(主に点眼薬)と手術療法があります。

 点眼薬は主に、房水の巡りを改善させるタイプのものと、房水の作り過ぎを抑えるものの2種類に大別されます。

 ○房水の巡りを改善させる点眼薬(カッコ内は商品名)
  A プロスタグランジン関連
   イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)、ラタノプロスト(キサラタン)
   トラボプロスト(トラバタンズ)、タフルプロスト(タプロス)
   ビマトプロスト(ルミガン)

  B 交感神経遮断薬
   チモロールマレイン酸(チモプトール)、カルテオロール塩酸塩(ミケラン)
   ベタキソロール塩酸塩(ベトプティック)
   ブナゾシン塩酸塩(デタントール)
   ニプラジロール(ニブラノール、ハイパジール)、レボブノロール塩酸塩(ミロル)

 ○房水の作り過ぎを抑える薬:炭酸脱水素酵素阻害薬
   ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト)、ブリンゾラミド(エイゾプト)

 ○縮瞳させる薬
  A 副交感神経刺激薬:ピロカルピン塩酸塩(サンピロ)
  B コリンエステラーゼ阻害薬:ジスチグミン臭化物(ウブレチド)

 ○房水の産生を抑え、流出を高める薬
  交感神経刺激薬:ジピベフリン塩酸塩(ピバレフリン)
  ※散瞳を起こすので、狭隅角眼や前房の浅い閉塞隅角緑内障を起こす可能性のある場合は禁忌とされる。


 手術に関しては、急激な眼圧上昇や、高眼圧で点眼薬への反応性が悪く、眼圧が下降しにくいケースにおいて施行されます。
 日本では主に、繊維柱帯切除術(トラベクレクトミー)と、繊維柱帯切開術(トラベクロトミ―)が行われています。

 〇繊維柱帯切除術(トラベクレクトミー)
  房水を結膜下に継続的に導くことで眼圧を下げる方法。繊維柱帯切開術と比べ、眼圧下降には優れるが、合併症が多いという特徴があります、

 〇繊維柱帯切開術(トラベクロトミ―)
  シュレム管と前房を直接つないて眼圧をさげる術式です。合併症はすくないものの、眼圧下降効果は前者に劣ります。
  

緑内障に対する鍼灸治療


 緑内障に対する鍼灸治療は比較的多くの治験例が報告されており、当院においても緑内障の治療で患者さんが来院されています。 ここではその症例を1例、紹介したいと思います。

 症例@ 30台 男性
 主訴 右眼の眼圧調性不良、視力低下、視野欠損

○鍼灸治療を受けるまで
 コンタクトレンズを作ろうとして眼科で検査をしたところ、眼圧が高いと指摘され、詳しく検査をした結果、緑内障と診断されました。点眼薬で治療をはじめ、眼科に定期的に通院するようになりますが、途中で右眼圧が50mmHg近くまで上昇(自覚症状はなかった)したため、急遽眼圧を下げる手術を受けました。手術後、眼圧は14mmHgにまで下がったのですが、その後、再び
20にまで上昇し、なかなか下降しなくなったため、当院を受診しました。
 病院の視野検査では、緑内障に特徴的な視野欠損が認められました。

○鍼灸治療をはじめてから
 治療を開始してからの眼圧と視力の変化を、折れ線グラフに示しました(画像をクリックすると拡大されます)。治療は週1回からスタートし、3か月後からは2週に1回としました。



 鍼灸治療をはじめる前は、左右ともに眼圧が20mmHgで、正常範囲内ではあるものの高めです。しかし、治療をはじめて2週間後には右眼圧が13mmHgに、6週間後には左眼圧も15mmHgまで下降しました。点眼薬を使っている右眼のほうが眼圧の下がり方が早く、その後も低い値を維持し続けています。緑内障の治療では、点眼薬と鍼灸治療を併用すると、鍼灸単独よりも眼圧をコントロールしやすい傾向があるようです。一方で、左眼は点眼薬の使用はなく鍼灸治療単独での治療ではあったものの、初診と比べて眼圧を低く維持できていることから、鍼灸単独の効果を示すこともできたと考えられます。
 また、矯正視力については、治療開始前は左1.0、左0.5でしたが、開始4か月後には両眼とも1.2にまで上昇しました。視野障害のある右眼の視力が大きく向上したことは、視神経の機能低下による視力低下の改善に、鍼灸治療が何らかの影響を与えた結果ではないかと考えています。疾患は異なりますが、現在、視神経萎縮による視力低下の患者さんに対し、鍼灸治療を行ったところ、1回の治療で矯正視力が0.15から0.5にまで上昇した症例がありました。この患者さんは、この2〜3年程、矯正視力で0.2以上は出たことがなかったとおっしゃっており、お互い驚きを隠せませんでした。
視野についても、来院当初の状態が維持されているようで、点眼薬の濃度も半分にまで落とすことができました。
 今回の症例が示すように、緑内障に対する鍼灸治療により、眼圧下降・視力改善が認められる結果となりました。眼圧を低く抑え維持することができると、視野欠損の進行を抑制することにもつながります。今後、緑内障の治療の1選択肢として、鍼灸治療が広く認識されるよう、常に情報発信していきたいと考えています。


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秋英堂の名前の由来

治療院名となっている「秋英」とは秋桜、コスモスの中国語名の1つです。花言葉の1つに「調和」ということばがあります。
からだとこころの調和、ひとと自然との調和、ひと同志の調和を目指した治療院にしたいという思いから、「秋英堂(しゅうえいどう)治療院」と名付けました。