糖尿病網膜症
糖尿病の発症・および進行の予防のために気をつけていただきたいこと
糖尿病網膜症の概要と鍼灸治療の役割
糖尿病の本体は血管障害であり、初期においては血糖値の異常以外に自覚症状がなく、血糖値の異常だけでは病識を持ちにくいかもしれません。しかし「サイレントキラー」とも言われるこの病は静かに進行していきます。そのため早期から治療を受けずに無治療のまま過ごしてしまい、進行して合併症が発症した段階で治療が開始するケースも珍しくありません。
合併症には「網膜症」「腎症」「神経障害」が3大合併症として有名ですが、秋英堂治療院では糖尿病網膜症の患者さんに対しての鍼灸治療を行い、視機能の改善・維持に努めています。
糖尿病網膜症は眼の中の状態によって「単純網膜症」→「前増殖網膜症」→「増殖網膜症」と段階を経ていきます。単純網膜症や前増殖網膜症においては自覚症状がないことが多く病気の進行に気がつかないほどです。増殖網膜症になって出血や網膜剥離などを起こして視野に異常を感じて初めて眼科を受診し、そこで糖尿病と診断され治療を開始したという患者さんを何人も診てくると、改めて糖尿病の早期発見・治療の重症性を認識させられます。
糖尿病網膜症によって眼底出血が起こると視界はどのようになってくるのでしょうか?
患者さんがおっしゃることをまとめてみると「黒い糸くずや藻のようなものが見える」「大きな塊が上から覆いかぶさっている」 「霧みたいなもやが、時に濃くなったり薄くなったりする」などといった表現をすることが多いです。これらは網膜出血や硝子体出血を起こしたときの特徴的な表現となります。
さらに黄斑浮腫を起こすと変視症や中心暗点といった症状も出現してきます。
さて、糖尿病網膜症の現代医学的な治療の全体像と、その中で当院ではどのような考え方で鍼灸治療を行っているかを下の図にまとめました。
糖尿病全体の治療の目標は血糖を良好にコントロールすることであり、各種合併症治療下においても内科的治療は不可欠です。糖尿病網膜症の治療において重要なのは眼科と内科とがお互いに患者さんの情報を共有し、適切な治療を行うことと言えるでしょう。内科的な血糖コントロールを基盤に、眼科では眼の状態に応じてレーザー治療や抗血管新生薬(抗VEGF薬)、ステロイド、硝子体手術などを通じて患者さんの視機能の維持を図ります。
糖尿病では血管障害による各種合併症を引き起こしてきます。鍼灸治療の大きな目的は血管障害を改善、すなわち出血の吸収、血管壁の強化、血流の改善です。とりわけ血流の改善は、末梢組織に十分な酸素や栄養素を届け、網膜症の進行を抑え、予防することに役立ってきます。
網膜症には最初に述べたように進行過程によって単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症の3つに分けられています。自覚症状もなく進行度もまだ軽度な単純網膜症の段階から治療を開始するのが理想ではあるのですが、症状のない状態で鍼灸治療を受けようと考えるのはやはり難しいと思います。そのためでもあるのですが、当院に来院される患者さんの全てが増殖網膜症で眼底や硝子体の出血を引き起こし、視力や視野に障害を抱えた状態で来られます。
ページ上部に戻る
糖尿病網膜症の患者さんに対する鍼灸治療の症例
患者:50代女性 主婦
主訴:糖尿病網膜症による視力低下
初診:X年5月
現病歴
X-3年2月頃に初めて眼底出血を起こし視力が低下。レーザーにて止血する。
その後3年間、出血とレーザーを繰り返す。
現在は左右両眼共に網膜血管からの出血部位が1か所ずつあるが、血塊により出血部位を同定できず、レーザーが打てない。
硝子体手術も検討されるが手術による出血のリスクが大きいため、主治医はできればレーザーで治療を進めたいとのこと。
視力改善を希望し、X年5月、愛知県一宮市の千秋針灸院より紹介を受け来院される。
鍼灸治療前後における視力の継時的変化
鍼灸治療前の視力は左0.05、右0.5でしたが、週2回の頻度で治療を行っていった結果、左0.9、右1.0にまで回復しました。
本症例のように糖尿病網膜症の眼底出血によって視界が遮られ、それによって視力低下を起こしている場合、鍼灸治療を行っていくと眼底出血が吸収されやすくなり、それに伴い視力が回復していきます。
ページ上部に戻る糖尿病の発症・および進行の予防のために気をつけていただきたいこと
糖尿病の発症や進行を防ぐうえで避けるべきことは、急激な血糖値の変化を起こすことです。
急激な血糖値の変動を起こさないようにするために実践していただきたいこと、それは「食事コントロール」です。
食事コントロールによって糖質の摂取をコントロールし、血糖値の大幅な変動をできる限り抑え、糖尿病の発症や進行の予防に努めることは視機能を長期的に保つためには不可欠です。
ところが食事コントロールは、鍼灸師の立場ではアドバイスはできても強制はできません。患者さん自身に実践していただく必要があります。
いままで食べ物の内容を気にせず自由に食事ができた状況から一転、食事の内容や食べる順番などを意識して食事コントロールを実践していくことはかなりの苦痛を伴います。
食事コントロールは糖尿病と上手に付き合っていくために継続が欠かせません。そのためには患者さん自身が糖尿病についてきちんと理解し、なぜ食事コントロールが必要なのかをきちんと認識することが極めて重要です。
糖尿病の理解、食事コントロールについては主治医や栄養士など医療機関で指導を受けることをお勧めいたします。
ページ上部に戻る