炎症性腸疾患に対する鍼灸治療〜秋英堂治療院の考え〜

2015年5月20日更新
 開業鍼灸師という立場で炎症性腸疾患に対応する以上、寛解期から入院を必要としない活動期の軽症、および軽症寄りの中等症までを鍼灸治療の対応可能範囲と考えます。腹痛や下痢がひどく体重の減少が著しい場合や栄養状態の維持が難しく悪化の一途を辿るようなときには鍼灸治療だけで対応するのは困難であり、入院を勧め適切な治療を受けられるよう配慮すべきです。鍼灸だけでなんとかしようして医療機関への適切な受診機会を逃してしまえば、軽症で済むものが重症化してしまう可能性もありますので、施術者も患者さんもこのことは常に念頭に置いておくべきだと思います。

 さて、炎症性腸疾患の鍼灸治療は大きく寛解期と活動期の2つに分けられます。

 寛解期には暴飲暴食や刺激物の大量摂取など、いわば無茶な食生活をしない限り、クローン病においては低脂質・低残渣の食事を意識しつつもいろいろな食材や料理に挑戦して体重を増やし、体力の向上・維持を図ります。また、散歩やストレッチ、体操、ヨガ、太極拳などの比較的軽度な運動を取り入れ、負担のない範囲で体を動かすようにしましょう。腹部の血流を良くし、またストレス解消やストレスに対する抵抗力をつける体づくりにも繋がります。私は朝30分ほどの散歩と、散歩コースの途中にある公園でストレッチをしています。夜はできるだけ早く就寝するようにします。例えば睡眠を6時間取るとした場合、22時に寝て4時に起きるのと1時に寝て7時に起きるのとでは、前者の方が睡眠の質が遥かに良好で、日中も眠くなりにくく仕事の効率がアップします。

 寛解期の鍼灸治療は「胃腸力」、すなわち消化吸収力の強化を中心に行います。せっかく食べた物も、消化吸収されなければ身にならず体力の向上も図れません。漢方的には「健脾」(脾を健やかにする)という考え方で治療にあたります。ここでいう「脾」とは現代医学の「脾臓」のことではなく、胃腸を中心とした消化器の働きのことを意味します。

 もちろん寛解期で症状が落ちついていても、定期的に血液検査や内視鏡検査などをうけていただくことは必須です。症状が落ち着いていても炎症反応が高値を示したり、内視鏡的に病気が進行していることもあるので、それに応じて使用するツボや道具なども変更していきます。

 一方、活動期(軽症〜軽度中等症)においてはまず「休腸」、すなわち腸を休めることが必須です。在宅では炎症が落ち着くまでできる限り消化が良く腸に負担のかからないものを摂りつつ、経腸栄養剤でカロリーを確保しながら内服薬を使用する形になってきます。可能であれば絶食して経腸栄養剤のみでカロリーを確保し腸を休めるほうがより有利でしょう。そのうえで炎症を落ちつかせる目的で鍼灸を行います。

 ドイツで発表された研究によると、軽症から中等症のクローン病の患者(2004年)および潰瘍性大腸炎の患者(2006年)に対する鍼灸治療において、10回の治療(4週間〜5週間)後に疾患活動指数やQOLの改善効果が示されました。さらに2014年に中国で発表された研究では、同じく軽症から中等症のクローン病患者に対する鍼灸治療で、週3回、12週間の治療後に活動指数やQOL、血液学的所見(炎症反応、ヘモグロビン)、病理組織スコアの改善効果が認められました。

 腹痛や下痢などの症状が落ち着き、各種検査で寛解導入が確認されてきたら1〜2週間に1回の治療を継続し、症状が再燃してきたら1週間に2回程治療を集中していくことで寛解導入を早め、寛解維持を図ることができるのではないかと考えます。

参考文献
○全日本鍼灸学会雑誌 第65巻別冊(抄録号)
  第64回公益社団法人 全日本鍼灸学会学術大会 ふくしま大会抄録集



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秋英堂の名前の由来

治療院名となっている「秋英」とは秋桜、コスモスの中国語名の1つです。花言葉の1つに「調和」ということばがあります。
からだとこころの調和、ひとと自然との調和、ひと同志の調和を目指した治療院にしたいという思いから、「秋英堂(しゅうえいどう)治療院」と名付けました。