クローン病について


 口腔から肛門までのあらゆる部位に炎症の再燃と緩解を繰り返す慢性の炎症性疾患。 1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医、ブリル・バーナード・クローンらによって「限局性回腸炎」として最初に報告、後に病名は改められる。当初の病名のように回腸末端から盲腸にかけてのいわゆる「回盲部」が好発部位。

 クローン病は主に10歳代後半〜20歳代の若年者に多く、男女比は2対1で男性に多い。平成25年度の特定疾患医療受給者証交付件数は3万9799人と年々増加。
 主に小腸と大腸に病変が生じるが、上述の通り特に小腸末端部(回盲部)が好発部位である。非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在する)を特徴とし、それにより腹痛や下痢、血便、体重減少などを呈する。

 クローン病の原因はいまだはっきりとはわかっていないが、遺伝的要素や細菌、ウイルスによる感染症、摂食物の何らかの成分に対する腸管粘膜の異常反応、腸管の血流障害などが報告されてきた。また近年、何らかの遺伝的要素を背景とし、腸内の免疫担当細胞が摂食物や腸内細菌に対して過剰に反応することが病気の発症や増悪に関与しているとも考えられている。

 主症状は腹痛、下痢、体重減少、発熱、肛門病変など。まれに虫垂炎との診断で開腹手術の時にクローン病とわかるケースや、腸閉塞、腸穿孔、大量の下血など重篤な症状で判明することもある。腸管外合併症として、末梢の関節炎や強直性脊椎炎、口腔内アフタ、結節性紅斑、虹彩炎、小児では栄養の吸収不良による成長障害など。長期経過例においては悪性腫瘍の発症にも注意が必要。

 クローン病の治療は重篤な合併症などがない限り、基本的に内科的な治療が中心。栄養療法と薬物療法があり、重症度や症状の程度などによって方針が分かれ、それにより使用する薬物などが異なってくる。

■内科的治療
 IBD調査研究班が提唱する本邦クローン病の治療指針案ならびにクローン病重症度分類を下記に示す。
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 軽症では5-ASA製剤が第一選択薬。また栄養療法も有用で、両者を併用することもある。 これらで効果不十分の場合には中等症〜重症の治療方針に移行。
 中等症〜重症では経口ステロイドを投与し、漸減中止する。ステロイドの減量・離脱が困難な時には免疫調整剤であるアザチオプリン(AZA、商品名イムラン)や6メルカプトプリン(6-MP、現在保険適応に含まれていない)の併用を考慮。 我が国では以前から瘻孔を有する患者に6-MPの少量投与(30〜50r/日)が行われており、約6割のケースで瘻孔の閉鎖、改善が認められている。

ステロイドや栄養療法の寛解導入療法が無効→抗TNF-α抗体製剤(商品名レミケード)の投与を考慮。

 病勢が重篤および高度な合併症を有する重症例では外科治療の適応を検討したうえでステロイドあるいは抗TNF-α抗体製剤の投与を検討。

 著しい栄養低下、頻回の下痢、広範な小腸病変の病勢が重篤な場合、腸管の高度狭窄、瘻孔、膿瘍形成、大量出血、高度の肛門病変などを有する場合や通常の経腸栄養療法が困難な場合は完全静脈栄養療法(TPN)を行う。

 瘻孔に対しては外科的治療の適応を検討する。薬物療法としては抗TNF-α抗体製剤が使用される。AZAも外瘻に有効な場合がある。治療を徐々に強化するステップアップ療法が一般的であるが、難治化の危険因子(若年発症例、穿通性病変や肛門病変の合併、腸管切除を要する、ステロイド投与を要する)を有する場合には抗TNF-α抗体製剤を先行して投与するトップダウン療法により良好な臨床経過が得られる可能性が示唆されている。

 寛解維持療法としては在宅経腸栄養療法や薬物療法(5-ASA製剤、AZAなど)が用いられる。AZAは腸管病変のほか肛門病変の寛解維持にも有効である。また抗TNF-α抗体製剤により寛解導入された後は、定期的投与が寛解維持に有効である。在宅経腸栄養療法では1日の摂取カロリーの半分量以上に相当する成分栄養剤の投与が寛解維持に有用である。短腸症候群など在宅経腸栄養療法でも栄養管理が困難な症例では在宅中心静脈栄養法を考慮する。


栄養療法

 成分栄養剤による経腸栄養療法の寛解導入効果は活動期においてステロイドと同等とされ、腸管病変の改善に優れている。また30kcal/s/日以上の成分栄養の継続が再燃防止に有効であることも示され、小腸病変に対してより効果的である。TPNは活動期の著しい栄養低下、頻回の下痢、広範な小腸病変の病勢が重篤な場合、腸管の強度狭窄、瘻孔、膿瘍形成、大量出血、高度の肛門病変などを有する場合に適応となるが、個々の病状に応じて栄養法を選択する必要がある。またTPNは経腸栄養療法と同等の寛解導入効果を有することが明らかにされており、病状が安定すれば経腸栄養療法に移行。

経腸栄養療法は成分栄養剤(エレンタールR)を経鼻もしくは経口投与。当初は低濃度少量から開始し、注意しながら投与量と濃度を漸増して数日かけて維持量に移行。1日の維持投与量として理想体重あたり30kcal以上を目標として投与。成分栄養剤を用いる場合には10〜20%脂肪乳剤200〜500mLを週1〜2回点滴静注。また亜鉛や銅などの微量元素欠乏にも注意。


5-ASA製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン)

軽症〜中等症のクローン病に対してまず5-ASA製剤から開始。サラゾスルファピリジンは5-ASAとスルファピリジンの結合体であり、主に大腸で効果を発揮。これに対してメサラジンは5-ASAの徐放性製剤で、小腸上部から抗炎症作用を発揮。しかし基本的にクローン病に対して寛解維持効果はないと考えられている。


ステロイド

中等症〜重症の症例や、軽症でも5-ASA製剤に反応しない活動期症例が適応。経口ステロイド(プレドニゾロン40r/日程度)を投与。寛解導入効果に優れるが寛解維持効果はないとされる。易感染性、満月様顔貌、骨粗しょう症、耐糖能異常等の副作用を回避するためにも長期使用は避けるべき。


血球成分除去療法

ステロイドや栄養療法に対して難治性・抵抗性の急性期患者やインフリキシマブ投与困難例・効果減弱例に対して、リンパ球・単球・顆粒球除去療法が適応となった。潰瘍性大腸炎と同様のスケジュールで使用。


免疫調整薬

チオプリン製剤であるAZAと6-MP(保険適応外)はCDの寛解導入には有効であるが、効果発現までに数週間〜3か月程度を要する。一方、安定した寛解維持効果を有し、
またステロイド減量効果もあるためステロイドからの離脱にも有用である。いずれの薬剤も体内で種々の酵素代謝を受け、チオグアニンとなり免疫抑制作用を発揮する。
AZAは有効である限り3〜4年は継続することが望ましいとされるが、明確な投与期間設定はない。副作用は、投与初期に投与量とは無関係に出現する発熱、発疹、悪心、下痢、膵炎や、投与量や代謝に依存する骨髄抑制、脱毛、感染、肝障害など。少量から投与を開始し、頻回に血液データを確認することが重要。


抗菌薬(保険適応外)

海外ではメトロニダゾールやシプロフロキサシンなどの抗菌薬の長期投与がCDの大腸病変や肛門病変に有効性を示すとの報告あり。


抗TNF-α抗体製剤

本邦では現在インフリキシマブとアダリムマブが保険適応。前者はマウスタンパクを含むキメラ型抗体製剤で、後者は完全ヒト型抗体。いずれもCDの炎症持続に関するTNF-αの中和作用を有し、さらにインフリキシマブは抗体依存性細胞死の誘導に強力な抗炎症作用を発揮。寛解導入・維持療法として有効であり、瘻孔閉鎖維持効果も有する。
一方で重症感染症や日和見感染症のリスク上昇や、潜在性結核菌感染症の顕在化の報告あり。近年ではB型肝炎ウイルスの再活性化の可能性も指摘されている。また、抗体製剤に特有の副作用として、投与時反応や遅延型過敏反応による全身反応、製剤に対する抗体産生による効果減弱(二次無効)もある。
インフリキシマブは寛解導入療法として5r/sを0,2,6週に投与。この治療で50〜60%の高い緩解導入率。以降は同量を8週間隔で維持投与。効果減弱が認められた場合は10r/sへの増量が可能。
アダリムマブは初回160r皮下投与、2週間後に80r、さらに2週間後から40r隔週の維持投与に移行。寛解導入効果は40~50%。


内視鏡的バルーン拡張術

従来よりCDの大腸狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術が施行されてきたが、近年では小腸狭窄に対しても可能となった。CDにおけるバルーン拡張術は腸閉塞症状を伴い、比較的短く屈曲が少ない両性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものが良い適応。内視鏡観察下に造影を行い、狭窄部の性状と狭窄長を確認後にバルーンで拡張。偶発症である穿孔と出血に注意し、慎重に施行すれば再狭窄に対しても反復して施行可能、手術回避効果も得られる。



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秋英堂の名前の由来

治療院名となっている「秋英」とは秋桜、コスモスの中国語名の1つです。花言葉の1つに「調和」ということばがあります。
からだとこころの調和、ひとと自然との調和、ひと同志の調和を目指した治療院にしたいという思いから、「秋英堂(しゅうえいどう)治療院」と名付けました。